【古事記】八咫烏とは何なのか

 古事記では神武天皇が東国を征服する際に道案内をした3本足のカラス「八咫烏」が登場します。今回は八咫烏についてまとめます。

 

1 神話の世界の鳥たち

 例えばイスラム世界では千夜一夜物語において、ロック鳥という象をつかんで飛ぶような巨鳥が登場するし、インド神話では神様が乗る鳥、霊鳥ガルーダが登場するがこちらも巨鳥です。
 なぜ、物語や神話に出てくる鳥は巨大なのでしょうか。ある専門家は太陽がどのように異動するのかを考えたときに、天に近い鳥が太陽を運ぶと考えられたことが、鳥が大きく描かれる要因ではないかと述べています。

 

2 なぜ鳥は神話に登場するのか

 神話は大きく分けて、大陸系神話と南国系神話に分けられます。両者の大きな違いは神々の住む世界の考え方です。
 大陸系神話:神々は上空に住んでいると考えます
 南国系神話:神々は海の向こうに住んでいると考えます
 これは、人が未知の世界を考えるときの考え方の違いから生まれるもので、大陸の場合は歩いて行けない上空に未知の世界を設定しやすく、島国の場合は歩いて行けない海の向こうに未知の世界を設定しやすいことが背景であると考えられます。
 例えば大陸系のキリストの聖書では天国は上空にあると考えられていますし、沖縄に伝わる神話では海の彼方にニライカナイという神々のすみかがあると考えられています。
 大陸系では、上空に神々の世界があると考えられるので、その上空を飛ぶ鳥が神格化されやすかったと考えられます。

 

※ 沖縄の波の上宮。海を見渡せる場所に拝殿があり、その昔はニライカナイ信仰がなされていた

 

3 八咫烏とは

 古事記で神武天皇が東国を征服する際に道案内をした3本足※のカラス「八咫烏」です。八咫とは古代の長さの単位で1.5~2mであるとされ、かなりの巨鳥です。


※古事記と日本書紀に3本足であったという記載はありません

 

4 なぜカラスなのか

(1) 道案内をしていたカラス

 日本でよく目にするカラスはハシブトガラスやハシボソガラスなど、土地にとどまって生活をする留鳥(りゅうちょう)ですが、世界的にカラスといえば渡鳥であるワタリガラスです。
 古代インドではカラスを海上での道案内に使用した記録が残っているようです。カラスは陸の鳥であるため海面で休むことができないことから、カラスが飛んでいった方向に陸地があると判断していたようです。
 このような話からカラスには道案内の鳥というイメージが定着していったのかもしれません。

(2) 死者をあの世に運ぶカラス

 ヒマラヤ地方では死体をカラスに食べさせる鳥葬の文化があります。死肉をついばみ、それを天上へ運んでいく姿から、カラスは死者の魂をあの世に運ぶというイメージが定着していったのかもしれません。

 

5 熊野信仰

 八咫烏は熊野(現在の和歌山県)から大和(現在の奈良県)までの道案内をしましたが、熊野で現れたのには理由があるとされています。那智の滝があることからもわかるとおり、熊野は山深く、とても人が住めないような場所であったため、神々の世界との境界(入口)であると考えられていました。そんな場所ですので、神の使者である八咫烏が現れたのかもしれません。
 熊野三山である熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社には、八咫烏をモチーフとした手水舎などがあります。

 

6 まとめ


 ・ 大陸型の神話の世界では巨鳥が登場しやすい 

 ・ 古事記においても、八咫烏という巨鳥が登場する 

 ・ カラスはその習性から古来より道案内の鳥として重宝されていた 

 ・ 八咫烏は神の使者であることから、熊野付近で登場する 

 ・ 八咫烏は熊野から大和への道案内をおこなった 

 ・ 現在も熊野三山では、八咫烏をモチーフとしたものが存在している

 農耕社会となったあとはカラスは農作物をあらす害鳥というイメージが定着してしまいましたが、かつての狩猟が中心の社会では、カラスは狩猟のお供として重宝され、神話にも登場するくらい格式の高い動物だったのです。

 

2016年10月03日